Public ART

「アンガー・フロム・ザ・ボトム」小豆島の神社に鎮座するのはビートたけしとヤノベケンジで共同制作されたパブリックアート

作品データ Data

作品名 Title アンガー・フロム・ザ・ボトム
作家名 Artist ビートたけし、 ヤノベ ケンジ Kenji Yanobe
制作年 2013年
寸法(H×W×D;cm) 715 × 460 × 520
材質 ステンレス、FRP、アクリル、LEDライト 他
備考 アンガー・フロム・ザ・ボトム

作品について About

温暖な気候の香川県小豆島に、ヤノベ ケンジ先生がお笑い芸人ビートたけしと共同制作した、大型パブリックアートが設置されています。

2013年、ビートたけしとヤノベ ケンジによって、古井戸に棲む水の神様が埋められたことによって怒り化け物となって井戸の底から現れる、全長8mの彫刻作品「Anger from the Bottom」が共同制作されました。

作品は『瀬戸内国際芸術祭2013』において、水不足の歴史を持ち古井戸があった縁により、洞雲山の麓の風光明媚なこの地に置かれました。

そして、会期中には水の神様の御魂を鎮める祭礼が行われ、作品は新たに御神体として祀られることになりました。
2014年、地元有志によって社が建てられ、水の恵みを祈願する美井戸神社となりました。ー 作品銘板 より

「アンガー・フロム・ザ・ボトム(地底からの怒り)」は、古井戸を模した石垣から出てくる「化け物」のオブジェが、せり上がって頂点で水を吐き出し、降りることを繰り返す巨大な彫刻作品である。

ビートたけしがテレビ番組でヤノベ ケンジがディレクターを務める京都芸術大学ウルトラファクトリーを訪問したことをきっかけに、2013年にヤノベと共同制作された。 ー ヤノベケンジ 公式サイト より

ANGER from the Bottom – ヤノベケンジ

大地の反逆

2013年1月に放送された『たけしアート☆ビート』(NHK BSプレミアム)の特別番組としてビートたけしが2012年秋、京都造形芸術大学及び併設されているウルトラファクトリーを訪れ、アートの授業を体験する収録が行われた。

ウルトラファクトリーでは、プロジェクト型実践授業の趣旨にのっとり、ビートたけしとヤノベ ケンジ及びウルトラファクトリーによるコラボレーション作品の制作を行うことになった。たけしのアイディアを基にディスカッションして内容を深め、それをヤノベとプロジェクトに参加した学生が制作して具現化するという手順で進められた。

たけしの提案は古井戸から出てくる化け物を彫刻作品にすることだった。たけしは同番組でヴェネチア・ビエンナーレを訪れた際、ピロティ形式になっている日本館のピロティと館内をつなぐ開口部に、幼少期に東京の下町に数多くあった古井戸を連想していた。それ以来、古井戸をモチーフにした作品の構想を温めていた。

日本にとって井戸は、「井戸端会議」と言われるように地域共同体の中心であるとともに、自然の恩恵を直接的に感じられる存在であった。さらに、その奥に水龍神などの存在を信仰したり、四谷怪談の「お岩さん」の舞台になったり、霊的で想像的な世界と共同体とを繋ぐ重要な回路でもあった。しかし、井戸は日本が高度経済成長を遂げる過程で、上下水道を整備することで不要のものとなった。そしていつしかゴミや産業廃棄物の投棄で汚染され、最終的に塞がれていった。

たけしとヤノベは古井戸に棲んでいた神様が怒って化け物となった彫刻作品によって、環境汚染の反動で自然の猛威に晒されている今日の人類を風刺的に表現することを試みた。そこにはイソップ寓話『金の斧』のパロディで、欲にかられた二番目の男が湖に投げた斧が神様の頭に刺さるという、かつてたけしが演じていたコントの要素も盛り込まれた。

それらをイメージして、ヤノベは古井戸から出てきた斧の刺さった化け物がせり上がって水を吐き出すという模型を作る。それはドクロのような頭と鱗のような躯体、文楽人形のような顎の機能を持った機械彫刻のプランであった。そこには、舞台芸人出身であるたけしの起承転結のあるアイディアと、そこに江戸時代の文楽人形やカラクリ人形的な要素を見出したヤノベの卓見と技術が結実していた。奇しくも二人の共同制作は、現代アートの表現をとりながら、日本の共同体や信仰、芸能の伝統を色濃く反映する作品となった。

ヤノベは巨大化するにあたり、水による錆防止とイメージに合う輝きを出すため初めてステンレスを採用した。そして、アルミニウムより重く、全長8m以上にも達する躯体を、油圧システムで古井戸から頭を持ち上げ、伸びたところで顎に貯めていた水を一気に吐き出す仕組みを作った。結果的に全長、重量、仕組みなど、ヤノベ作品の中でも最も大掛かりな作品の一つとなった。また、古井戸の石垣を福島の石から型取り、気付かれることはないがさらに象徴的な意味を持たせた。

「アンガー・フロム・ザ・ボトム(地底からの怒り)」と題された作品は、東京都現代美術館でお披露目された。一つのテレビ番組の企画を超えて、多数の報道陣が訪れ、メディア空間にも拡張されるかつてないプロジェクトとなった。ー ヤノベケンジ 公式サイト より

(1/2) アンガー・フロム・ザ・ボトム [2013] – ヤノベケンジ

戸の底から芸術の起源へ

「アンガー・フロム・ザ・ボトム(地底からの怒り)」は、古井戸を模した石垣から出てくる「化け物」のオブジェが、せり上がって頂点で水を吐き出し、降りることを繰り返す巨大な彫刻作品である。ビートたけしがテレビ番組でヤノベ ケンジがディレクターを務める京都芸術大学ウルトラファクトリーを訪問したことをきっかけに、2013年にヤノベと共同制作された。

たけしは、イソップ寓話の『金の斧』のパロディで、湖に斧を入れたら、斧が刺さった神様が怒って出てくる自身のコントをもとに、古井戸をモチーフにした彫刻作品を提案し、ヤノベと構想を練り上げた。ヤノベはドクロのような頭と鱗をまとったような躯体、文楽人形のような顎の機能を持った「化け物」が、せり上がって水を吐き出すという全長約8mに達する巨大彫刻を設計。重厚なステンレス製の頭部を持ち上げる機構を油圧システムによって実現した。また、古井戸の石垣を、福島の岩石の型から創った。

そして、たけしとヤノベは、ゴミなどと一緒に埋められた井戸が、自然の恩恵に対する信仰や井戸端会議などの地域コミュニティの解体、そして環境汚染の反動で自然の猛威に晒されている人類の今日の姿を象徴していることを風刺的に表現した。それは福島第一原発の地下汚染水の状況と重なることにもなった。

2013年の1月に東京都現代美術館で展示され、その後「瀬戸内国際芸術祭2013」で小豆島の洞雲山の麓の高台にある古井戸跡で展示された。小豆島は瀬戸内海式気候であるため降水量が少なく、昔から水に困窮していた歴史があり、作品は土地の記憶を想起させることにもなった。

会期中には、井戸の「化け物」が1 時間に1 回せり上がって、多くの観光客を出迎えた。その後、地元の神社の神主と巫女によって「化け物」となった神様の怒りを鎮める祭祀が行われ「ご神体」となる。

さらに、会期終了後は、地元有志団体の寄付と建築集団ドットアーキテクツの設計によって、「ご神体」の伸縮に応じて、柱も伸縮する画期的な社が創られ、水と芸能の神様を祀る「美井戸神社」 と名付けられた。「アンガー・フロム・ザ・ボトム」は、芸術祭の作品という枠を超えて、祭りと芸術の起源に遡り、共同体と自然の再生の願いを反映する象徴的な存在となった。ー ヤノベケンジ 公式サイト より

(2/2) アンガー・フロム・ザ・ボトム [2013] – ヤノベケンジ

設置場所 Location

香川県小豆郡小豆島町坂手 美井戸神社

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作家について Artist

ヤノベ ケンジ(Kenji Yanobe)
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