滋賀県琵琶湖のほとり、大津港ミシガン船乗り場のすぐ隣に、大津港シンボル緑地公園と呼ばれる広場全体を、井上 武吉先生が設計したパブリックアートがあります。
作品データ Data
作品名 Title | my sky hole 97-2 水面への回廊、琵琶湖 |
作家名 Artist | 井上 武吉 Bukichi Inoue |
制作年 | 1997年 |
寸法(H×W×D;cm) | ー |
備考 | 滋賀県大津土木事務所 |
作品について About
国内外に多くのパブリックアートを設置した井上 武吉先生の晩年の作品で、代表的モチーフであるステンレス球形彫刻でなく、自然の素材を用いていくつかの要素で環境を構成し、鑑賞者の心情の起伏をも含めた空間造形を試みました。
大津港の中心施設となるこの公園を、ひとつの大きな彫刻と考えてみた。
宙空を彫る意識で立体的にとらえた空間は、各部分に微妙な起伏や傾斜を与えながら、それら全体の構成は、遠近感を操作し、琵琶湖の水面との視線の交差を複雑にしている。
目で見る風景というよりは、全身で体験する空間である。 ー作家のことば より
敷石の広場
公園入口の導入部、敷石の広場は進むにつれ6%の昇り勾配がとられ、あえて入り口では全体が見えない工夫がされています。
その勾配が、公園の全貌を一挙に見せることなく、距離感を狂わせて、公園の中へ人を惹きつける。昇りきった所で琵琶湖の水面が見え、湖を身近に感じる。 ー作家のことば より
回廊列柱彫刻
そして敷石の広場両脇には回廊列柱彫刻として、高さ6mの花崗岩の円柱が合計36本、特徴的なサルスベリの木を囲むように並んでいて、空間に一定のリズムを刻んでいます。
円柱にはテントをかけるフックもあり、週末マーケットなどの集まりに利用されることを想定して、市民が触れ合う場所としての機能を持たせました。
列柱彫刻の石の丸柱間の、百日紅(サルスベリ)の並木は、夏の盛りから赤い花を咲かせ、初秋を迎える。
その木の下に、テンポラリーに色とりどりのテントを張って市が立つ計画もある。近江には、「楽市」を初見される歴史があり、権力や規制から自由を承認された場で、人間性豊かに、生活に密着した市場文化があった。
物の交換、そして心の交換する場となる市が人を呼び、港を行き交う人々により活況を呈するよう、文化を踏襲したいと思った。 ー作家のことば より
緑の広場
撮影時期が初春のため緑に映えていませんが、夏の時期には野芝とクローバーの緑が、2つの三角柱で構成されたシンボル彫刻の白を際立たせ、コントラストを感じることができます。
さらに進んでいくと、次は穏やかな降り勾配の野芝とクローバーが生える「緑の広場」が足元に広がり、ちょうど足を留めたくなるあたりで、アイストップとなっている「石のシンボル彫刻」がある。 ー作家のことば より
石のシンボル彫刻
公園の中心に位置する高さ3.2mの石のシンボル彫刻は滑り台のような形状で、こどもも頂上まで昇ることができ、それによって階段彫刻で遮られた湖への視線が開放されます。
シンボル彫刻には水飲みも配されていますが、いまは水は出ません。
クスノキ
石のシンボル彫刻のスリットは、広場の中心的存在のクスノキへの動線が取られています。
円形広場の中心には、人を集めて傘となる葉幅10mほどの大木、クスノキが1本立っている。
クスノキはこの地方では神木と崇められており、その象徴的性格が円形広場の中心を強調している。 ー作家のことば より
円形広場
砂利が敷き詰められた中央の円形広場には、象徴的な1本のクスノキが緑を添え、琵琶湖への視線を高さ10mの2本の角柱が受け止めます。
石のシンボル彫刻は半円形階段「階段彫刻」と共に、近江舞子砂利を敷き詰めた「円形広場」の円弧の一端を担っている。 ー作家のことば より
門への道
そして円形広場の中心と「湖への門」(高さ10m、1m角の2本の花崗岩の大柱)をつなぐ「門への道」は、さらに浜大津駅から湖に臨むデッキと1本の軸線で結ばれ、門柱を通して、湖への視線を強調する。 ー作家のことば より
この軸線は、半円形の階段を左右に分断し、門への道に切通しをつくっている。 ー作家のことば より
湖への門
階段彫刻
一般的に見ればごく普通の花崗岩の石板を並べた階段ですが、全体的にゆるやかな右下がりの傾斜が取られ、円形広場に沿う造形自体をも彫刻作品として制作されています。
階段を昇るにつれ湖の風情が徐々に現れるという期待感と、広場から湖への空間のつながり、コロッセオのように階段に人が座って休んだり、クスノキを鑑賞して佇む時間を意味づけるといった試みがなされています。
円形広場を加工石組の半円形「階段彫刻」は、水平の状態から7.5%ほど円弧が傾き、微妙な傾斜は、湖面の水平線と交差し、身体感覚を呼び覚ます。 ー作家のことば より
礎石彫刻
この階段を背にする芝の斜面には礎石を思わせる7つの石組の「礎石彫刻」が点在している。ここでは湖は目の前に大きく広がっている。 ー作家のことば より
琵琶湖は毎日ライトアップされた噴水が時間をおいて、夏には花火大会で多くの人でにぎわう広場に足を運んでみてください。
琵琶湖の景観を求めて、ときには心静かに琵琶湖と向き合うのもよい。 ー作家のことば より
1999年この作品で本郷新賞を受賞しました。
http://www.hongoshin-smos.jp/pdf/hongo_award_1-15.pdf
設置場所 Location
滋賀県大津市浜大津 大津港シンボル緑地